君と、恋
あれから12年が経った。
「行ってらっしゃい!」
母親の声を背中に、
あたしは玄関を飛び出した。
家の前にある8段ばかりの階段を、
ゆっくり下りると
そこにはいつも見慣れてる姿があった。
「おはよ」
「お前、マジで遅い」
「な…っ」
そこにいたのは、
あんなに小さくて、
あんなに優しくて、
あんなに可愛かったとおやくん。
12年前とは全く違う今の姿。
身長なんてあたしと変わらなかったのに、
今となっては、はるかに高い。
髪の毛だって、少し茶色いし
ズボンだって少し腰パン。
あんなに可愛かった顔も、
今ではみんなのアイドルそのもの。
そして、
問題なのはこの性格。
あんなに優しかったのに、
今となってはこんなに意地悪。
だけど、
そんな十夜が
あたしは大好きだ。
「置いてくぞ」
前を歩いてる十夜が後ろを振り向く。
「ったく、遅い」
だけどあたしだけが知ってること。
ぶつぶつ文句を言いながらでも、
ちゃんとあたしを待ってくれる。
あたしだけが知ってる十夜のいいとこ。