君と、恋
「そ、そんなんじゃ…ないと、思うけど」
意外にその答えがまじめで、
あたしはそれに笑ってしまった。
「可愛いね、結衣は!」
そう言うと、
あたしは結衣を通り越して
前に足を進めた。
「ちょっと!待ってよ!」
後ろから、結衣の声が響く。
ただの冗談を、真に受けて
恥ずかしそうにしている結衣が、
本当に可愛かった。
「あ、結衣」
「ん?」
あたしはさっきとは反対に、
前に1歩踏み出し
結衣の足を止めた。
「あたし、結衣に話があるから」
あたしは真顔で、そう伝えた。
「何、まじめな話?」
後ろからちょこちょこと詮索するように、
疑問を投げかけてくる。
「うん。大まじめな話。旅行の時聞いて?」
そう言うと、結衣は
顔の前でサインを出し
微笑んだ。
「もちろん!聞く聞く!」
「頼んだよ~!」
あたしは、結衣の頬をつねった。
「痛っ…あ、」
つねられた頬を、自分の手で
擦りながら何かを見つけたような声を出す。
「ほら、あそこ!哲さんだよ!」
結衣の指の先を目で追うと、
そこには本当に哲がいた。