君と、恋
そこにいた全員が
多分同じ方向を見た。
今まで誰もいなかった
あたしの隣に大きな影が。
「だよね、紗月?」
影が正体を見せ、
哲だと分かった時。
あたしは何故かほっとした。
「う、うん。これ水着ですよ?」
「あ、そうなんだ!ごめんごめん!」
慌てて弁解すると、
龍司さんはおどけて謝ってくれた。
「じゃ、行くか!」
「きゃー!海、海!」
龍司さんは結衣と
子どものように海へと
走って行った。
十夜と飛鳥ちゃんは2人で
ゆっくりと海に向かっていく。
「哲、あたし…」
「俺ちょっと眠いから、少し寝かせて?」
海に入りたくない、と。
そう告げようとした時。
何かを察したのか、
哲は砂浜の上に1人寝ころんだ。
「ここ、座りなよ」
哲は砂浜が熱いから、と
自分が持っていたタオルを
二重にして置いてくれる。
優しさに、少し涙が溢れた。
不覚にも、溢れた涙が零れて
哲の顔の上に落ちてしまった。