君と、恋
「哲!」
何が何だか分からなくて。
無我夢中で、あたしは走った。
「哲…て、つ」
走りながら必死に名前を呼ぶ。
目の前で、彼が見知らぬ男に
殴られている。
「飛鳥ちゃん、これ着てて!」
手に持っていたパーカーを
飛鳥ちゃんの肩にかけ、
あたしは哲の元に駆け寄った。
「哲…、大丈夫?」
「紗月…」
見ると、口の横が少し切れて
血が出ていた。
体を拭くために持ってきた
タオルで優しく傷を覆う。
「お、こっちも可愛いじゃん!」
「お姉さんも、遊ぼうよ!」
哲に必死で忘れていた。
あたしの彼を、殴ったやつらを。
「や…っ、ちょ…っと」
両肩を掴まれ、哲から引き離されると
気持ちの悪い男達は耳元で
可愛いね、と連発してくる。
くちゃくちゃと噛んでいるガムが
異様な音を立てて、気持ち悪さを
倍増させた。