君と、恋
「す、すいま…」
「あ?聞こえねえって」
そこにいる哲は、
今まで見た事のない人物に思えた。
これまでにキレた哲を、
あたしは見た事がなかったから。
いつも温厚で、優しかった彼が。
あたしのせいで、人を殴ったんだ。
だからあたしが、彼を止めないと。
「お前、殺すぞ…」
「や、やめてくださ…」
殴りかかろうとする哲に。
「哲!もう、いいよ…」
あたしは必死に声をかけた。
少し震えてる辺り、
怖かったんだと思う。
「あたし大丈夫だから。…ね、もうやめて」
「紗月…」
馬乗りになっていた哲は、
その男から身を退けた。
「哲…って、もしかして…」
男に背を向けた哲は、
その一言でもう一度振り向く。
「帝東中の…頭だった…?」
帝東中の…頭?
帝東中って…確か、すごい
荒れてた中学校…。
哲…頭だったんだ。
「…だったら、何?」