君と、恋
「いえ…、すいませんでした」
男はそう大声で叫び、
どこかへ逃げて行った。
「哲…ごめ、ん」
「何で…、紗月が謝んだよ」
海で濡れたベタベタな髪を撫でてくれて。
海で濡れたベタベタな体をぎゅって
抱きしめてくれた。
「もう…、大丈夫だから」
「ん…あ、飛鳥ちゃん!」
あたしは思い出したように立ち上がり、
飛鳥ちゃんのいる方へ走った。
あたしのパーカーを着て、
呆然と座りこんでいる飛鳥ちゃん。
「飛鳥ちゃん…っ」
ぎゅっと抱きしめると、
華奢な体がぶるぶると震えていた。
抱きしめる手に、力が入る。
「怖かったよね…、1人にしてごめんね…」
安心したからか、飛鳥ちゃんは
ポロポロと涙を流した。
「すいません…、大丈夫です。ごめんなさ…」
押し返してくる、か弱い力が
何とも言えないくらい胸を締め付ける。
「あ、ごめん…。潮…くさかったよね!」
なんて、わざと言って場を和ませる。
飛鳥ちゃんは、小さく笑ってくれた。
「こんな時に…言うのも変なんだけど」
"十夜はどこに行ったの?"