君と、恋
「紗月っ!」
しばらくして。
哲と龍司さんが駆けつけてくれた。
急いで走ってきてくれたのか、
少し汗をかいていた。
「紗月、遅くなってごめん。怖かったよな…」
両手を伸ばして、
あたしを包んでくれた。
十夜の匂いが消えて、
名残惜しい気もする。
「じゃ、俺はこれで」
十夜はペコっと頭を下げると、
走ってその場を立ち去った。
あたしは何も言えなくて、
ただ背中を見送るしかなかった。
「哲、ごめんね。あたし…」
「謝るのは俺だよ。遅くなってごめん」
悔しそうに、顔をゆがめる。
そんな顔、させたくなかったのに。
「哲、大丈夫。あたし平気だから」
「紗月…、これ」
哲が少し頬に触れると、
ぴりっとした痛みが走った。
きっと、結衣を助けようとした時に
殴られて、その時に出来た
傷だと思う。
「あ、大したことないから!十夜が助け…てくれ、たし」
でも、何で。
十夜が来たんだろ。