彼と私と隣の彼



「俺がこんな必死になってるの詩乃ちゃんだけなのに。」


ボソっと吐いたその言葉。


必死って…


なんか使い方が違うでしょ。


もっと違うことに必死になればいいのに…




「第一、その先輩はもう詩乃ちゃんのこと、覚えてないかもじゃん?」


「そんなのわかってるよ。でもいいの。」



あたしが一方的に見てるだけだから。



それでもいいんだもん。



「ふーん…」


「何さあ…。」




時々見せる、真剣な瞳に一瞬あたしの心も揺らぐ。


普段ふざけている分、こういうギャップはひどくあたしを困らせるの。


春人なんかタイプじゃないし、絶対好きになるはずないのに…


それなのに最近、たまに…


本当にたまに春人にドキドキしているあたしがいる。



それが何なのか、今のあたしにはわかるはずなんかない。




「第一、春人はあたしの何を見て良いって言ってるの?」


「じゃあ逆に詩乃ちゃんは先輩のどこが好きなの?たった1日で先輩のことわかっちゃうわけ?」


質問に質問で返されるなんて思ってもみなくて。

しかも、春人の言葉に一瞬言葉を詰まらせた。



「どこって…」


「ほら、言えないじゃん。」


確かにたった1日、ううん10分程度だったかもしれない。


それでもあたしは惹かれたの。


何かよくわかんないけど惹かれたの!


それじゃあ理由にならない?



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