彼と私と隣の彼
「…バカ」
「え?」
「春人のバカっ!」
知らない知らない知らない!
どうしてそんな意地悪みたいなこと言うの?
あたしのことなんだからほっといてよ!
「あ…ちょ、詩乃ちゃん!」
「春人なんて、バカでアホでチャラくてエロ魔王でモテモテなんだからー」
そんな捨て台詞を残したあたしは教室を飛び出した。
「詩乃ちゃんっ!」
なんて言う春人の声も聞こえないフリ。
わかってる。
わかってるよ。
こうやって1年間何もせずに過ごしたあたし。
先輩に会いに行こうと思えば会いにだって行けた。
だって広くたって、大きくたって同じ学校だもの。
先輩が何組かも知ってる。
それでも会いに行かなかったのは、本当に好きじゃないから?
…ちがう。
誰だっけ。
って言われるのが怖かったから。
あたしはこんなに覚えているのに、先輩の中にあたしの存在がないかもしれない。
そう実感するのが怖かったから。
それにね…
先輩を好きと言いながら春人が隣であたしに、ちょっかいかけてくるのが本当は好きだった。
先輩に近づけばそれすらなくなってしまうの?
なんて考えたら何も行動なんてできなくて。
「あはは。ダメダメ。」
あたしって欲張り?
先輩のことは好き、大好き。
でもね?
知らないうちに…無意識のうちに本当は少し、少しだけ…
春人に惹かれてた。
考えないようにしてたのに…
やっぱり春人の馬鹿…。
あたしのこと好きなくせに追いかけてもこないし。
春人の馬鹿…。