凛と咲く、徒花 ━幕末奇譚━
「お前がちゃんと愛してやらないから、朔はあんなんになってしまったんだぞ!!」
帰宅した私が耳にした第一声は父の怒声だった。
嗚呼、まただわ…。
足音を立てないよう廊下を歩き、修羅場と化したリビングへ。
「はぁッ?!冗談じゃないわ!あんな愛想のない子、どうやって愛せっていうのよ!!」
再婚した女の高い声が耳に痛い。
「お前は母親の代わりなんだ。愛想がなくても、ちゃんと母らしく接してやるのが義務だろ?」
「親らしく……?笑わせないで。そんなことあたしに言える立場かよ!」
繰り広げられる醜い擦(ナス)り合い。また喧嘩。残酷なことに原因は、私。ほら、私の存在が、争いの種。痛い、胸がぎりぎりと、締め付けられるように痛む。
「だいたい、朔はあんたの娘でしょ?あたしに押し付けたり、他に女作る暇あんなら、あの子と一緒にいてあげたらどうなのよッ?!」
「お前…なんだその口のきき方は!!」
「きゃっ……ちょ、やめてよ!!」
キーキーうるさかった女の声が、苦痛なものへと変わる。
どうしたんだろう。こっそり部屋を覗き見れば、怒りの形相の父親が女の明るい髪を掴んでいた。苦痛に歪む表情。
あ、どうしよう。私のせいで、わたしのせいで……