凛と咲く、徒花 ━幕末奇譚━
「もうやめて!!」
私はドアを開け、叫んだ。その叫びは女のためなのか、それとも自らのためなのか……どっちだったんだろ。
「朔……」
「放してよ!」
父が我が子の登場に驚いた一瞬の隙をつき、女は父の手を振り払った。
さっきまでの言い争いが嘘のように静まり返る室内。重い沈黙が木霊する。父は視線を泳がせ、なんとかこの場を取り繕うような言葉を必死で探し続け、女はふて腐れた顔で長い髪の毛先をひたすら指でいじっていた。
誰も何も言わない。言えない。だって、濁った絆を浄化する術なんて見えないから。
みんな、もうそれすら望まなくなっちゃったから。
やがてこの無言の空気の重圧に耐え切れなくなったように、父が何も言わず部屋を後にした。私の目に溜まった涙には気づかぬふりを貫いたまま。
わかってるよ、それがあなたの本音なことくらい。
「はぁー!もう、毎晩毎晩ほんとやんなっちゃうわ!」
盛大なため息を吐き、女がソファーにどさっと座った。その台詞には、私への悪意が込められている気がする。
「あんたの父親…再婚したの間違いだったみたい」
くすり、嫌らしい笑みを零す。
「最低ね、あんたの父親。浮気するわ暴力振るうわ妻を大事にしないわじゃ、奥さんだって出てって当たり前だっつーの!」
「…すみません」
刺々しい言葉の羅列。不本意ながらも謝罪する自分が嫌い。憎いよ、目の前の、この人よりも。