凛と咲く、徒花 ━幕末奇譚━
朔の言動や表情を思い出す度、心の中では様々な感情が交差する。
しかしその明確な答えは鞠千代自身も見つけられていなかった。とある条件の下、この主の指示で平気で人を殺める立場の自分が何故、あのような無関係な少女を助けるのに一役買っていたのか。それも自己の判断で。自分でも理解できない点が多々あり、鞠千代自身にもそれはわからないことだった。
そんな自分の手駒を見兼ねたのか、男が口を開く。
「接する内に、下らぬ情でも湧いたか」
――…情?あたしが、あの子に?生きようが死のうが全く関係ない、あんな理解できないことを言って退ける……。
そこまで考え、ハッとした。ある事に気づいた鞠千代はようやく納得できる答えに辿りつく。
「お前は自分の、いや、我らの立場をわかっておるのか?あの娘を生かしておくことがどれほどの危険を伴うか、」
「主」
答えを手にした鞠千代は、口許にうっすら笑みを形作る。
「例の娘、使えるかもしれません」
「何?」
「上手くいけば主の、いえ、将軍家のお役に立つかと…」
「……何を言っている?」
男は怪訝そうに眉を寄せた。
――『私、実は―――未来から、この時代より二百年くらい後の、平成っていう時代からやってきたんです』
「主……それはそれは面白いお話が御座います」
昼間、朔たちに振りまいていた時と同じように、鞠千代は無邪気に笑ってみせた。