凛と咲く、徒花 ━幕末奇譚━
「…面白い話、だと」
「はい。主にとっては喜ばしいことこの上ないであろう、お話が」
「……フン、申せ」
小さく鼻を鳴らし、少々不服そうではあるものの男は許可を出す。
「はっ、ご報告申し上げます。実はあの娘―――」
居ずまいを正すと鞠千代は朔が自分たちに話したことと同じ内容を語っていった。自分が彼女を助けたのは、朔という存在に〝使い物〟になるという価値を見出したからだ、と自分自身にも言い聞かせながら。
「―――以上で御座います」
その言葉を最後に鞠千代の声が途切れ、室内は朔が東雲たちに打ち明けたときと同様の奇妙な静寂に包まれる。
男は何も言わず、自分の手元に視線を縫い付けていた。その表情は話す前と何ら変わりない。感情が、真意が、読み取れない。
――…あたしを怒るか、それとも喜ぶのか…。さっきの話をこのお方はどうやって受け取る?
鞠千代はじっと男の言葉を待ち続けた。そして、不意に男の口許が歪んだ。
「……くくっ」
一呼吸遅れ、固く結ばれた唇の奥から嘲笑を漏らす。
「そうか………今よりも二百年も後の世から、なぁ……………そうかそうか、それは、」
ゆっくりと瞳が鞠千代へと向けられ、
「実に面白い話だなぁ、鞠よ」
純粋な悪意に染まる瞳は笑う。
褒められたことへの喜びを表すように鞠千代は頭を垂れた。