凛と咲く、徒花 ━幕末奇譚━
「初めは厄介な物を持ち帰ったと思っていたが………それは私の勘違いだったな。新撰組は実に良い拾い物をしてくれたわ」
うれしそうに、愉しそうに、笑う、笑う。
その笑顔を見ていると、鞠千代は報告した身であるにも関わらず複雑な思いとなったが、それを急いで掻き消した。
「娘の言葉を、信じるのですか?」
「それはお前の働き次第よ」
「?…わたくし、次第?」
――どういうこと?……さっき良い拾い物だって言ったのに。
「お前に新たな任を命ずる」
珍しく機嫌が良さそうに男は言う。
「あやつの監視と平行し、その娘へ近づき、親しくなるのだ。若い娘同士、打ち解けるのに然程時間はかからないだろう。親しくなれば自ずと詳しいこともわかってこよう。いつでも使えるよう、しっかりと手懐けておけ」
「御意」
そういう意味か、と鞠千代が理解し小さく頷くと男は思い出したように付け加える。
「暫くは殺す意味がなくなった。となると……屯所で拷問されている愚か者たちはもう要らぬな。適当に始末しておけ」
一気に興味が失せたような口調で話すのは、仮にも自らの手下の命。
「鞠千代、お前に新たな任を命ずる」
男は再び繰り返す。
「お前の働き、期待しているぞ」
「必ずや、主のご期待に応えてみせましょう」
鞠千代は主――松平容保(マツダイラカタモリ)へと微笑んだ。
深い闇の中で松平の瞳が一瞬、紅く染まったように見えた。