凛と咲く、徒花 ━幕末奇譚━
━弐━
更新中
そこは、やけに現実味のない世界。
嗚呼、これは夢なのね。すぐに理解できるような朧気な景色。なのに、ひどく懐かしさを覚える。
狂ったように美しい満月を背景に、
ひらり、はらり。
舞い散ってゆく桜。
私が向かい合うように立っている大きな桜の木の下で、一人の少女が蹲っていた。
顔を両手で覆っている。表情が見えない。
泣いて、いるの?ねぇ、あなたは誰?
顔を隠してしまっているせいで、彼女が誰なのかわからない。
けれど、彼女の持つその長く赤い髪に私は見覚えがあった。
顔を覆い隠し、声も出さずに肩を震わせている。
「っ」
その異形を見つめていると、何故だか胸の下辺りがぎゅーっと窄まるような、切なさに似た感覚がして苦しくなった。
不思議にも怖いとは思わない。逃げようとも、叫ぼうとも思わない。
自分の姿と重なるものを感じ、異形の少女へと歩み寄っていく。
声を出して泣けない程、何が悲しいの?誰か、助けてくれる人はいないの…?
「ねぇ、」
伸ばした腕は後少しで少女に届く―――