凛と咲く、徒花 ━幕末奇譚━
「っあ、」
白濁した意識のまま瞼を上げれば、与えられた自室の天井。
桜は、あの子はどこに。
嗚呼、やっぱり夢だったんだ。
目覚めてしまった。彼女に手が届く前に。
天井へと伸ばしていた腕をだらりと落とす。
起き上がると、いつの間にか目尻に溜まっていた涙がつー、と頬を滑っていった。
怖かったんじゃない、切ないの。何かが、とても虚しい。泣きたくなるほどに。
なんだったのかな、あの子……。
「起きているか」
暫くそのままの姿勢でぼんやりしていると、戸越しに声が掛かった。
「し、しの、ちゃん?」
そう呼ぶことへの気恥ずかしさが込み上げ、語尾が小さくなってしまう。
「…………本当に私をそれで呼ぶのか」
返ってきたのはムスッとした声。見えている訳じゃないのに、しのちゃんの表情がありありと浮かんでしまう。
「あ、やっぱりダメだ、」
「まぁ、別に構わないがな。それより、着替えは済んだか?」
「ううん、まだだけど?」
「なら、すぐに済ませろ。局長がお前に話したいことがあるそうだ」
近藤さんが?