凛と咲く、徒花 ━幕末奇譚━
それから急いで着替えを済ませ、しのちゃんに連れられ近藤さんの部屋を訪れていた。
「昨夜はよく眠れたか?」
近藤さんは平凡なことを尋ねながら穏やかに笑いかける。
私が緊張しているのを見抜いてのことだろう。
「あ、はい。部屋とお布団、ありがとうございます」
こんな感じでいいん、だよね…?
内心びくびくしながら怖ず怖ずと頭を下げた。
「そうか、それは良かった。済まないな、朝早くに呼び出してしまって」
「いえ、そんなっ……」
朝早く、と言われても今何時なのか正確にはよくわからない。
ここへ来る途中、しのちゃんの後に続く私を珍しそうに見てくる寝ぼけ眼の隊士たち数人とすれ違ったから、起床時間が過ぎてまだ間もないみたいだけれど。
「実はだな」
近藤さんは表情を真剣なものへと変える。いよいよ本題へ入るよう。
「君を襲った連中の仲間が、逃げ遅れたために我々に捕らえられたことは知っているだろう?」
そういえば沖田さんやしのちゃんたちがそんなことを口にしてたっけ。皮肉にも結果的に私は彼らの存在によって救われたことになってしまうんだ。
「……はい」
あまり思い出したくなかった。返事がどうしても暗くなってしまう。
「それで、君を襲った黒幕が誰なのかトシが尋問を行っていたのだが……」
どうしたんだろう?
近藤さんの声のトーンが徐々に落ちていく。
「結局、吐かせることはできなかった」
その言い方は過去形。
「やつらは、自刃した」
「えっ」