凛と咲く、徒花 ━幕末奇譚━
その逃げ遅れた人たちと実際には会ってない。しかも私を殺す目的で工作していた相手の死。
それでも、胸中には動揺が走った。
どうして、何で…?自らの命を絶ってまで、答えられないことだったの?
浮かぶ疑問はもう一つ。
私は数日前までこの時代にいなかった。幕末へ飛ばされてすぐ拘束され、ほとんどを屯所内で過ごした。出会った人間も数えられる程。その黒幕ってのは、その人たちの中にいるのだろうか。
そう考えれば恐ろしくなる。
私を殺したいくらいに邪魔に思ってるのって、一体……?
「死なせぬため、持っていた刃物は全て取り上げたつもりだったのだが……」
悔やんでいるかのような声に私の意識は引き戻される。
「すまない。これでは君の殺害を指示した者を突き止めることが出来なくなってしまった」
「そんな……私は別にわからなくても、構いませんから」
正直、不気味でしかないよ。でも、保護してくれている立場の近藤さんに謝らせるわけにはいかない。その思いで無理して笑ってみせる。
「屯所にまで忍び込まれた以上、我々とてその黒幕を暴いてやりたかったのだが、非常に無念だ……。とにかく昨日も言った通り、君の行動範囲は制限させてもらうが、君自身も十分用心するように。いいね?」
用心って言われても、知らない間に時代超えちゃってる時点で……用心の仕方なんてわかんないわ。
内心そう思いつつも、私は「は、い」と非常に歯切れの悪い返事をしておいた。