凛と咲く、徒花 ━幕末奇譚━
「そうだ、綾瀬くん」
部屋を出ようした私に近藤さんは再び声を掛けた。
「はい?」
「何か……思い出したことはあるか?」
「っ」
次の瞬間、今朝見た夢の中で出会った赤髪の異形が頭を過ぎる。
赤く長い髪に黄色い双眸。今でもはっきり覚えてる。この時代へ来てすぐに出会った相手。
けど、これはさすがに言っちゃだめだよね?
あまり変なことは言わないようにしよう。
「すみません。まだ……何も」
嘘を吐いた。
「そうか。まぁ、無理はいけないな。ゆっくり時間をかけるといい」
「はい。ありがとうございます」
ぎこちなく頭を下げた。
「はぁ……」
廊下へ出ると、ようやく肩の力を抜けた。一歩一歩、近藤さんの部屋から遠ざかって行く。頭の中にはまだあの夢の少女の姿が鮮明に残っている。
あの子、やっぱり私が倒れてた邸で出会ったあの黄色い目の人、なのかな?
誰なのかはわからない。人かどうかすらも定かではない。沖田さんたちが何故あれを追っていたのかも―――。
そこでハッとする。
さっき近藤さんには黙ってたけど、沖田さんと土方さんは多分あれを探してるみたいな様子だった。
……どうしてなんだろ?あの子は新撰組と関係があるってこと?これは、訊いてもいいこと、だったのかな。