凛と咲く、徒花 ━幕末奇譚━
「ま、親が親だったら子も子よねー。あんた、置いてかれたんでしょう?実の母に。かわいそうにねぇ…」
同情を口にしつつも、それはきっと上辺だけなのでしょう。その証拠に瞳は嗤っていた。
背筋がすっと冷え、爪先から何かが這い上がってくる。
やめてよ、やめて…そんな目で見ないで……
「ねぇ?あんたさぁ、なんで置いてかれたかわかるー?同じ女の立場のあたしが教えてあげよっか。それはね、」
女の口の端が残酷に吊り上げられる。
聞きたくない、聞きたくない、聞きたくない…!!
「……あんたが、必要なくなったからよ、朔チャン」
母は私に何も告げず消えた。ねぇ、何時まで目を逸らすの?結果が全てを物語っているじゃない。気づかないふりをしていた。けれど、本当は気づいていた事実。
ぼろぼろ、目の前の景色は、無残にも砕け散っていく。
「あんな男との間に子なんか作らなきゃよかった、あんたなんか産まなきゃよかった、って。こう思ったから…あんたはもう要らなくなったから、邪魔になったから……だから、だからあんたは捨てられたのッ!!」
「っ」
次々に放たれる存在否定の言葉を聞いていられず、私はその場から逃げ出した。
夜の闇へと一人飛び出す。走った。脳内で再生される声から逃げるため、唇を噛み締め、涙を堪え、ただひたすら走り続けた。
―――ひらり、ひらひらり。
涙でぼやけた視界に舞い込んできた桜。
自然と足が止まる。
人喰い桜。
望んでいたわけじゃないのに、求めていたわけじゃないのに、この場所へとやってきていた。