凛と咲く、徒花 ━幕末奇譚━




明らかに私を指している台詞に大きく肩をビクつかせる。


しまった、バレた…!!




「なぁ、ちょっと。聞いてんのか?無視すんなよ、おい!」


ぱたぱた、ぱたぱた。声の主は確実に距離を埋めてきている。

覚悟も定まらないまま、泣きそうな思いで振り返ろうとすると、いきなりすぐ隣から肩に腕を回された。



っ、ぎゃああああああああああああ!!!!




状況を理解できず、心の中だけで盛大な悲鳴を上げる。叫ばなかった自分を褒めてあげたい。


この回された腕に決して深い意味はない思う。彼からしてみれば、仲間同士でじゃれ合う時のような、そんな軽い気持ちのはず。でも人と触れ合うことに慣れてない私には衝撃が大き過ぎて。



初対面なのにいきなり何?!

顔もまだはっきり見てないのにフレンドリー過ぎるでしょ?!




「お前なぁ、どう考えてみてもさ、これはダメだろ?」


私の耳よりも少し上の位置からやけに説教地味た声色で言う。



「髪くらいきちんと結えよー、髪くらい。身だしなみは大事だぜ?」



え、え?髪型?



「にしても、ずいぶん中途半端な長さだな……これじゃ総髪(ソウハツ)もできねぇじゃん?切っちまったのか?こんな長さのやつ、しのくらいだと思ってたんだけどな……って、あれ?」


訳がわからず、少しだけ顔を動かせばすぐ横にいた相手とばっちり視線が合ってしまった。


私とあまり変わらないであろう年齢の青年。人に説教するだけあって髪をきちっと結い、淡香(ウスコウ)の着物を綺麗に着こなしている。驚くほど至近距離にあった大きな瞳は不思議そうに私を見ていた。



えーと、誰…?って、顔近いよ!!








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