凛と咲く、徒花 ━幕末奇譚━
闇夜の邂逅
「―――ん」
ゆっくり目を開ける。
真っ暗。見たこともないくらい、深い黒。さっきまで光が嘘のよう。
鼻先を掠める藺草(イグサ)の香り。
これは、畳…?どうやら私はどこかの部屋の中にいるらしい。でも、どうして…?
両手をつき上体を起こし、その場に座り込む。視界で何かが動いた。瞬きを何度か繰り返す。その内だんだん闇に慣れてきた、私の目に映ったものは―――
「ぐぁっ…が、あぁ…」
「え……?」
飛び込んできた光景に息を飲む。思考が凍りついた。
すぐ目の前で、着物を着た男が小さく呻き、ゆっくりと膝から崩れ落ちその場に倒れた。
背には真っ赤な染み。辺りに漂うは鉄の匂い。