凛と咲く、徒花 ━幕末奇譚━



「おい、動くな!指一本でも動かしてみろ!こいつの首が飛ぶぞッ!!」


耳元で大声で叫ばれる。

ドラマの中だったらお決まりの安っぽい台詞。でも、喉元に当てられた刀へと全神経が集中し、これは現実であると教えてくれた。


首を締め上げられているせいで、上手く呼吸することができない。苦しい、息が……。




「隠れてたんだ?せこいなー…仮にも武士でしょう?」

「うるせぇ!!てめえらこそ夜討ちなんざ卑怯じゃねーか!」

「やっと出てきたと思ったら、味方を人質に取るだなんて…仲間割れですか?見苦しいな」

「仲間だぁ?知るかよっこんな腰抜けのガキ。長州藩士にこんな腑抜けはおらん!さっきの化け物といい、なんなんだてめぇらは…っ…!!」

「……仲間じゃ、ない?」



一定の間合いを取り、会話する二人。

信じられない…。この人たち、なんでこんな状況の下で普通に会話してるんだ。私は、どうなるの?この流れのまま、私のことを忘れてくれたらそれほど喜ばしいことはない気がするけど、それは多分、いや、恐らく絶対有り得ない。一分先を想像しただけでも、ただただ、絶望だけが膨らんでゆく。


あの女に存在を否定され、もう生きていたくない、と。確かに思ったのに、本物の死の恐怖を今眼前に突きつけられ、その甘い考えは瞬時に消えた。


怖い、怖い怖い…!次から次へと…どうしてこんな目に遭うの?この人たちは誰?ここは…どこ?



溢れる思いが涙となって頬を濡らす。


死にたくない、こんなところで死にたくないのにッ…!!






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