凛と咲く、徒花 ━幕末奇譚━
すると、その思いが通じたかのように青年と視線が交わった。
この人も私を殺そうとした。助けを求めるなんておかしな話。この男から解放されたとしても、身の安全は保障されない。この人に殺されるかもしれないんだ。でも、それでも……口にせずにはいられなかった。
「……おね、が……た…す、けてッ…!」
閉じた喉をこじ開け、やっとの思いで震える声を振り絞り出す。
そのか細い声を聞き、青年の瞳が嗤った。
次の瞬間、青年が私へ向け刀を振り下ろした。
飛び散る鮮血。
「ぐあぁあ!!」
悲鳴をあげたのは、男。
私に痛みはない。
どうやら私の首に回していた腕だけを斬ったらしい。男がよろける。
「くそッ…幕府の犬が!!」
「きゃっ」
反撃の邪魔になったのか、男は私を力任せに放り出し、青年へと刀を振り翳した。
私の体は一瞬空中に浮いた後、勢いよく畳へと叩きつけられる。
――ガゴン!!
その際、置かれていた台か何かの角に額をぶつけてしまい、生温い感覚が眉間を伝う。
頭がぐらぐら揺れ、だんだん、遠のいていく意識。
わたし…しぬの…?
「うわあぁあぁあああああ!!!!」
私を人質に取った男の断末魔が響き渡る。
それを最後に、意識は途絶えた。