凛と咲く、徒花 ━幕末奇譚━
『…ふふ。口惜しや…』
女は赤い唇を吊り上げる。
覗いた歯は鋭く、刃物のように尖っていた。
『私が…このわたくしがッ、無力な人間風情に斬られるとはなぁ……のぅ、竹千代?母である私を殺すか…ならば―――』
妖しい微笑を浮かべ、女は青年を蛇のように睨む。
青年は銀色の刀を再び握りなおした。
『ってやる……呪ってやる呪ってやる!!貴様の一族、これから産まれるであろう稚児(ヤヤコ)に、我らの血をくれてやろうぞ…!』
狂気を孕んだ瞳は徐々に紅く染まりゆき、雪のように白かった肌は浅黒い色へと変貌し、艶やかだった黒髪も毛先から赤みを増してゆく。
『我らの血が受け継がれる間、貴様たちに甘き夢を見せてやろう。鬼である私を、貴様如きが殺す褒美よ………じゃが、』
女の口許から笑みが消える。紅き瞳に宿りしは、憤怒と憎悪。
『我らの血は時を経る毎に薄まりゆく。同時に、貴様たちの栄華も衰えゆくのだ………その甘き夢が終わりを迎えしとき、貴様ら一族諸共……一中劫の永きに渡り、無間大城に堕としてくれるわあッ!!』
『―――鬼よ、終わりだ』
――ザシュッ。
青年が刃を振り下ろす。
視界を、鮮やかな赤が桜のように舞った。