凛と咲く、徒花 ━幕末奇譚━
後ろ手に障子を閉め、青年は細く息を吐き出す。まだ仲春。廊下の空気は肌を突き刺すように冷たい。青年は自らの手のひらを見つめ、考える。
自分は何故あの少女を殺さなかったのだろう。斬れなかったのか、それとも斬らなかったのか。考えても、考えても納得いくような答えは出てこない。
ただ……叫んだ気がしたのだ。刀を振り下ろす瞬間、もう一人の自分が〝殺すな!〟と叫んだような。そんな気がした。
そのとき、青年の頭にあの夢―――桜を背景に泣く少女の姿が浮かぶ。
まさか、実際に出逢うだなんて、それこそ夢にも思わなかった。
泣きながら死を望む、少女。
「願いを、叶えてあげるべきだったかな……」
青年の呟きはまだ暗い空へと吸い込まれてゆく―――。
夜が、静かに明けようとしていた。