凛と咲く、徒花 ━幕末奇譚━
「俺が新撰組局長、近藤勇だ。トシや山南くんの質問で、大体の話は理解した。が、俺からも最後に質問させてくれ」
近藤さんはゆっくり私と視線を交えた。
ごくり、唾を飲み込む。
「綾瀬くん。君は…本当に記憶を失っているんだな?」
まるで私の心に直接語りかけてくるような話し方に、躊躇しながらも言葉を紡ぐ。
「自分でも、本当によくわからないんです…でもっ」
「おいおい!何度も言ってるがそりゃおかしいだろ?!てめぇ自身でもわからねぇわけが、」
「トシ」
声を荒げた土方さんを近藤さんは片手で制す。
あの怖い土方さんが黙るなんて、やっぱりこの人本物の近藤勇なんだ。変なところで感心してしまう。
「続けてくれ」
「はい、私…嘘はついてません。昨夜私があの場所にいた理由は、本当にわからないんです…。信じて下さいッ…!!」
必死に懇願する。近藤さんは私を暫し見つめ、土方さんに目配せした。すると頷いた土方さんが東雲さんにこう命じた。
「連れて行け」
「は、はっ」
「え?あ、ちょっと、」
数秒遅れ反応して東雲さんは私を無理やり立たせ、ずるずる引きずっていく。
「や…離してください!」
「さっさと来い」
抵抗を試みても、腕は縛られていて、足は慣れない正座をしたせいで思うように力が入らない。細腕からは想像できないけど、やはり鍛えているのか、彼女の力は強い。私は見る見るうちに廊下へと連れ出された。
「私はっ……私は、殺されるんですか?!」
最後の力を振り絞って、叫ぶ。近藤さんはその問いには答えず、私から視線を逸らすだけだった。その仕種に体から一気に力が抜け、僅かにつなぎ止められていた心は砕け散る。
終わりを示すように、障子がぴしゃりと閉められた。