凛と咲く、徒花 ━幕末奇譚━
「こんな…思い、するくらいならっ……あのとき…っ!」
あのとき―――昨夜初めて沖田さんと出会い、彼が私に刀を向けたとき。あのまま殺されていた方が楽だったんじゃ…?
本当はそんなこと少しも思ってないくせに、絶望一色に染まった心にはこんな愚かな逃げ道までもが浮かぶ。
こうやって一頻(ヒトシキ)りああだこうだと現状を嘆いては、決まってとある疑問に辿り着くの。
なんで、こんなことになってしまったのか―――?
全く信じてなかったとはいえ、自分でも知らず知らずの内に人喰い桜を求めてしまっていた。綾瀬朔という存在を消してほしいと願ってしまった。
《それは、どうして?》
その原因を考えたとき、脳裏には二人の人物の顔が浮かんだ。父と、再婚相手の女。
あの女が私の存在を否定するから、父が血の繋がりのある自分に何も関心を示してくれないから…。だから、だからっ……!!
不思議だね。過去っていくらでも遡ることができるんだ。父が悪い、あの女が悪い、私を捨てた母が、と。脳内では次々といろいろな顔が浮かんでは消えていく。でもね、誰のせいにしたところで、哀しい哉…現実は何一つ変わらないわ。
これも、私が嫌というほど知っていることの一つ。
「なん、でっ…なんでなの…?」
噛み締めた唇の隙間から漏れる声に、一度は止まりかけていた涙がまた溢れ出す。
「私が、一体何したっていうのよ?!」
皺ができるくらい、着物を強く握り締めた。
「なんで……なんでこんなことに…っ………。こんなの、もうやだ…!帰りたい、帰りたいよぉ………元の時代に、帰りたいよッ……!!」
ぽろぽろ、ぽろぽろ。
何度も伝ってゆく涙。
泣いても、何も変わらないことくらいわかってる。余計に虚しさが募ってゆくだけ…。それでもこの絶望的な状況に、涙は止まらない。