凛と咲く、徒花 ━幕末奇譚━




「あー……もう、見てらんないなあ」



突如、天井から降ってきた声。


誰っ?!


俯いていた顔を上げると同時に、どこからともなく目の前に一人の少女が着地した。何の衝撃もなく、まるで木の葉が地面に落ちるように軽快に。




「なっ…?!」

「あれまぁ~…ひっどい顔!敵の懐に入り込んで泣く間者なんてはじめて見たよ。………つっても、あんたえらく丸腰だよねぇ」


立ち上がった少女は腰に両手を当て、呆れたように言う。


歳は私と同じか少し下に見える。癖なのか、緩くウェーブがかった髪をポニーテールのように高い位置で結い、黒い衣装を身に纏っている。


その格好はまるで―――



「に、忍者?」


テレビや漫画で目にしたような忍装束にそっくり。



「…………あ、しまった……」


驚きで涙も止まり、ぽかーんとした顔での呟きに、少女の顔色がさっと青褪める。しかしそれは一瞬で。気を取り直すようにコホンと咳払いし、その場に屈んだ。



「ねぇ、あんたに訊きたいことがあるんだけど」

「へ…へ?」



少女は内緒話するように声を潜める。対して、私の口から飛び出したのは間抜けな声。


単純にびっくりしたからだった。全くちがう時代に来てしまったのだから当たり前に次々に訳のわからない人ばかりが現れる。

今まで出会ったのは私に敵意を抱いていることが伝わってくる人ばかりで。それなのに今、目の前にいる少女からはあまり敵意というものが感じられない。本当に不思議。とても驚くと同時に戸惑ってしまう。






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