凛と咲く、徒花 ━幕末奇譚━
そうなるかもしれない、いや、恐らくそうなるだろう未来への暗示。
諦め半分で虚無感だけに支配されていた心に、再び生ずる死への恐怖。
「っ……それは、」
「ここでおとなしーく死を待つよりは、逃げ出して少しでも長く生き延びる方がよっぽど賢い考えやと思うけどなぁー」
平田の間延びした声が、繰り返し再生される。
おとなしく死を待つよりは、逃げた方が…。それはとても危険なこと。でも、もし上手くいけば―――。
ぐらぐら、大きく揺れ動く感情。平田は自分について来るか否かで葛藤する私を黙ったまま見下ろし続ける。
数分が過ぎた。感情という名の水が入った心という名のグラスから、水が少量溢れ出し―――私は顔を上げ、平田を真っ直ぐ見つめた。
「決まったみたいやね」
にぃ、と口の端を吊り上げる平田。朔は頷き、言った。
「……助けて、下さい」
「もちろんですよ。君みたいなまだ若い娘さんがこんなとこで死ぬんはかわいそうや。さっ、行きましょか」
静かに立ち上がり、平田に続いて部屋を出る。最後の希望に賭けてみることにした。
しかし、この時の私は気づかなかった。平田の口にした言の葉にこめられた矛盾に。