凛と咲く、徒花 ━幕末奇譚━



平田は今日の昼間友人に会いに行き、その友人の両親も私を匿うことを了承済みだと口にした。昼間話したのに、一体どうやって上方にいる両親に許可を取ったのだろうか。この時代に電話やメールは存在しない。短時間の内に離れた場所にいる人間に伝えることなど不可能のはず。

そしてもう一つ。何故、平田は髪を結っていない私を女だと気づけたのか。東雲さんや他の人たちも最初は私を少年だと勘違いしていたのに。


これらの矛盾に私は気づくことができなかった。命の危機が迫っている状況。そのような状況下では、正確な判断などできなくなってしまって……―――。




「足音、なるべく出さんよう気ぃつけて下さいね?」

「はい…」



最後の希望を胸に、渦巻く悪意を知らず私は怪しげな男と共に夜の闇へと飛び出した。

幕を開けた逃走劇。



行き着く先は、果たして何処?










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