凛と咲く、徒花 ━幕末奇譚━
「―――あ?!」
私の心情を読んだかのようにいきなり腕を拘束される。
「逃走した身であるにも関わらず、命を救われた。皆に感謝しろ」
腕を捕らえていたのは相変わらずの冷たい目付きの長束くん。懐から縄を取り出し、捕らえた私の両手首を縄で縛り始めた。
私は、一体どうなるんだろう?逃走したことにより、更に罪は重くなったりするの?連れ戻されて、即、殺されるとか……?
助かってうれしいはずなのに、全く素直に喜べない。自分はこれからどうなるのか、と。その疑問ばかりが脳内に木霊する。
「命拾いした、いや…してしまったのは本当に、幸か不幸か、だな」
ご丁寧にもわざわざ言い換え、長束くんは縄の結び目を固く縛った。
もう逃げられない。といっても、ついさっきの事を思い出せば皮肉にも逃げる気は起きなかった。助かるのか、殺されるのかはわからない。それでも屯所へ戻るしか、道は残されていない。
「行くぞ」
東雲さんが背中をトン、と押す。不安と恐怖に駆られながら、重い足を動かした。