凛と咲く、徒花 ━幕末奇譚━
―――放課後。
家へと向かう足取りが、重い。
一歩一歩、私は不幸へと近づいていっている、そう思うだけで苦しくなる。
「はぁ……帰りたくないな…」
ため息と共に漏れる本音。
私は家族が嫌いだった。
父の浮気癖のせいで元々夫婦仲はよくなかったんだけど、まだどこかに修復できる余地はあるはずだと、両親を嫌いながらも、私は心の奥の奥でそんな淡い期待を抱いていた。
しかし、私が高校生になってすぐ、母が出て行った。
ある朝、突然いなくなってしまった。
離婚したらしい。娘には、私には、何も告げぬまま。
悲しかった。嫌っていたとはいえ、やはり母がいなくなるというショックは小さくはなくて……。そして同時に母が出ていったことにより、父が少しでも改心してくれるんじゃないか。そんな願いもあったんだけど……
現実は、決して甘くはなかった。
父は改心するどころか、母がいなくなってすぐ、若い女と再婚したのだ。母親を失った私を心配して、というよりは、ただ単に愛人だった女を妻へと昇格させたといったとこだろう。初めこそ仲はよかったものの、父が懲りずに別の愛人を作ったせいで、また夫婦仲は拗(コジ)れてきている。
毎晩毎晩、階下から喧嘩する声が聞こえる。
もう、聞き飽きた。見飽きた。