凛と咲く、徒花 ━幕末奇譚━
父が娘の私ではなく、若い愛人にばかり金と愛情を注いでいることくらい知っている。戸籍上新しく母となった女が、血のつながっていない私を疎ましく思っていることも、気づいているよ。知らないほど、気づけないほど、私は純粋な良い子じゃないもの。
自分は誰からも必要とされてない。
誰にも必要とされなかった。だからこそ、実の母から捨てられ、父からは見向きもされず、再婚相手からは嫌われて。
《私》という存在が、こんな現状を作り出してしまったのかな…?
いつからか、自然とこう思うようになった。
生きているのが、苦しい。消えたい。もう生きていたくない―――。
ハッとして辺りを見回せば既に日が落ち、すっかり暗くなっていた。
ひらり、ひらり。
目の前を淡い桜色の花びらが舞う。それに誘われるまま天を仰げば、満開に咲き誇る幻想的な桜。更に、桜の向こうに見えた空には―――白く輝く満月が。
『お月さまが真ん丸くなる日に、この桜の木に近づくと、桜に食べられちゃうんだって』
蘇る、幼い声。
満月の日に、人を喰う、桜…。
「……バカみたい。花が人を食べるなんて…有り得ないよ」
一瞬でも何かに期待してしまった自分が恥ずかしい。桜に背を向け、私は再び重い足を動かした。
胸に芽生えた期待。
〝生きていたくない、という私の願いを叶えてくれる…?〟
そんな願いを掻き消して……―――