エイレネ
……海は静かだ。
私は甲板で潮の香りを楽しみながら、ずっと海をながめていた。

あのあと、出発二分前に到着して間に合った。
船までの道のりは短いが、なにしろ人が多い。
人をかきわけながら走るのは本当に大変だった。

「夏実」

狼が私を呼んだ。

「狼。部屋にいるんじゃなかったの?」

「もうだいぶ冷える。風邪ひくぞ」

狼は私の側にくると、上着を肩にかけてくれた。
狼のカーディガンだから、小さい……なんて口がさけてもいえないけど。
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