空を見上げて
「お待たせ…」

「おぅ!」


私が、あんな無言電話にも近い電話をしたことなんて微塵も気にしていない蒼。

マンションから出た私を笑顔で迎えてくれた。


「んじゃ、行こうか!」

「行くってどこへ?」


ニコっと笑った蒼は、私を自転車の後ろに乗るように促した。


「探検〜!」

「は?」


ノリノリの蒼。

探検って…。

腰をかけた自転車の荷台…。


「捕まった?」


私が蒼に捕まるのに抵抗を感じている事に気づいているのかいないのか…。

普通二人乗りを連想すると、前に座る人の腰に…。

でも、蒼はそれを強要しようとはしなかった。

私は、荷台を握りしめて返事をすると、蒼はゆっくりと自転車をこぎ出した。

後から聞いた話し、わざわざ私のために、お母さんの自転車を借りて来てくれていたらしい。


「美月さ、この辺まだ詳しくはないだろう?」

「え…うん。まぁ…」

「だ〜か〜らっ!探検!」


私が電話をした理由も聞かずに、蒼は自転車を走らせる。


『ここがスーパーでしょ〜』、『ここが銀行ね!』そう言いながら、蒼は走り続けた。


「蒼、ありがとう。買い物もコンビニしか知らなかったから助かる…」


蒼は、ここからひと駅先に住んでいるらしく、このあたりの地理も詳しいらしい。


「そっか!よかった!」


後ろ姿では、蒼の表情は伺えなかったけれど、声は明るくてホッとした。

私たちは、しばらく走った後で、駅前に到着した。

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