花とアイドル☆《完》
やがて、お互いの胸の鼓動が
おさまった頃。


拓斗はそっと、その腕を解いた。


その場にしゃがみ込んだまま、
至近距離から花乃の顔を覗き
込む。


「――泣いてたの?」


そっと、拓斗の指が花乃の頬に
触れた。

涙の跡を優しく拭う。


「あ――えっと……」


さっきまで泣いていたことを思い
出して、花乃は言葉につまった。


どういう事情で拓斗が来てくれた
のか分からないから、どう説明
していいのかも、分からない。


拓斗はサッと表情を曇らせて、
花乃の全身を素早く確認した。


「どーしたの?

もしかして、誰かになんかされた
とか……!?」


「あ、ち、違うの!」


拓斗は、変質者にでも襲われたの
ではないかと考えたのだろう。

花乃はあわてて否定する。
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