君に愛の唄を



「水沢さん屋上行こう!」


「え?…わぁっ!」



私は無意識のうちに水沢蓮の手を掴み、屋上に向かって走り出していた。


とても初対面とは思えない。



──バンッ…



屋上の扉を勢いよく開けると眩しい日射しがいっきに慣れてない目を襲った。


久しぶりにこんなに走った。



深呼吸をした私は気持ちを落ち着かせた。

そして、歌い出した。


歌ったのはサラリーマンの唄。


外でこんなにのびのびと歌ったのは本当に初めてだった。


…気持ちいい。


歌い終わると拍手の代わりに気持ちいい風が私に拍手をくれた。



「ココロさん?…」


「……はい」



何か、今なら上手く歌えそう。

歌は感じて楽しみながら歌うもの。


楽しくないのは音楽じゃない。



「水沢さん…私がココロなのは秘密でお願いします。小さな幸せが歌えなくなるから…」



そう、一番それが嫌なの。


有名になってみんなが顔見知りになると、小さな幸せに気づけなくなるんだ。


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