極彩色のモノクローム
「奈津、今”私”って言ったな。」


言われて、私は唇を手で押さえた。


嬉しそうに微笑むその顔を、上目使いに睨み付ける。


「忘れて。」


私が言うと、
マスターは意地悪な笑みを浮かべて私の顔を覗き込んで来た。


「少しは心、許してくれた?」


そう囁かれて、顔が熱く火照る。


私が使う”僕”は”壁”。


心は許さない、

信じたりしないって、

自分から壁を作っている証。


なのに。


「奈津。」


呼ばれて、私は赤い顔のまま彼を見上げた。



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