極彩色のモノクローム
「名前くらいいいだろ?どんだけ心配したか…」
マスターは言って、
苦笑を漏らした。
「お前がいなくなったら、うちの新作ブレンドは出来ないんだからな。」
「…何よ、その理由。」
私が眉をしかめると、
マスターは額に唇を押し付けてきた。
反射的に目をつぶる。
「俺の舌、いかれてるからな。珈琲の僅かな味の違いなんてわかんねぇの。」
その告白に、
私は閉じていた目を開けて彼を見た。
「…なんで?」
私が問うと、
マスターは少しだけ
苦しそうな顔をした。
「ガキの頃、火事に巻き込まれて熱風を吸い込んだらしい。口の中が焼け爛れて、舌もほとんど麻痺したんだ。」
火事に…?
その顔を見上げる。
苦しそうに笑うその頬に手を伸ばした。