極彩色のモノクローム
私はいつもの席に座ると、ゆっくりとスケッチブックを開く。

「何か飲む?」

マスターの問い掛けに、

「おまかせで。」

と答えた。

マスターは目を細めて頷く。

差し出された珈琲を真船さんの席に運ぶと、
真船さんはそっと私の左手に手を伸ばして来た。

「奈津ちゃん、これってタトゥー?」

言われて、頷く。

「そうですよ。」

左手の親指の付け根に、
私は最近タトゥーをいれた。

「なんで7なの?奈津なら72じゃない?」

言われて、私は舌を出して見せた。

「2は僕の運命の人が現れたらにするんだ。それまではナナでいいの。」

真船さんは、
そうなんだ、と笑顔を向けてくれた。

私は笑顔を返して、席に戻った。

鉛筆を滑らす音は、
心地よいJazzの音色にかき消される。

左利きだから、
嫌でもそのタトゥーは目に入って。

だから、左手にいれた。

何時だって、私は奈々を忘れない。

大切な私の半分が海に消えてから、

12年。


私はまだ、生きている。



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