極彩色のモノクローム
出来るのなら

やりたい。


でも、
見えないから。


色が見えないから。


「やってみたら?」


マスターが言った。


ひょいと奪われたスケッチブックを
目で追う。


「奈津にしか、出せない色があるかもしれない。」


私にしか
出せない色?


「無理よ。全然見えないんだから。」


言ったら、マスターの手がフワリと頭に乗った。


「無理か出来るかなんて、やってみなくちゃわかんないだろ。」


言われた私は、

マスターと玲奈さんを見比べた。


見える人にはわからないよ。

口にしかけて、
やめた。


言っても仕方ない。


「奈津の感じたままに、色、のせてみたらいいよ。」


言われた私は、
マスターを見上げた。


やってみなくちゃわからない。


「不可能なんて、ほんの一握りだ。そうだろ?」


一握りの不可能。


例えば、奈々を生き返らせることとか?


確かに、
それに比べれば、
出来ないこともないのかもしれない。


私はマスターの目を見た。


黒い瞳が、私を映す。


私は暫くその瞳を見つめて、
頷いた。



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