街で君の唄を聞いた




あの人には特別な力があった。



“あまり…使いたくはないけどね”

“どうして?”

“無くしたくないから”



理由が分かったのは、ずっと後やった。





副作用。

使うと共にかなりの激痛を伴い、使えば使うほど苦痛に耐えなければいけない。


無くしたくないというのは、自分の命だけ、あの人の命だけかと思っていた。




…違った。






あの人は自分が存在していたと言う証拠が無くなるというのが嫌だったからや。


否定され続けられていたあの人は、俺が救い出した。

暗闇でひっそりいようとするあの人は、溶け込もうとしても溶け込めず、ただ、息を殺して生きていた。



光なんて最初から無いもの扱い。

目に生が感じられなかった。
虚ろな目で無理矢理動かした。
操り人形のようで、ただの魔導式人形で動かされている。



自分の意志では動かない、そんな人やった。



だから、俺が手を伸ばした。



―――そんな暗い場所には居させない。

明るい場所に居て欲しかった。

いつも今日を見て欲しかった。



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