街で君の唄を聞いた
一人で彼を見つめる。
まだ彼は微笑んでいる。
「ゴメン、自己紹介はちゃんとしなきゃ駄目だよな。俺はラグアス。月読(グラセル)ってゆー種族。――――俺もいえば力持ってる」
「ラグアス…。力を持っているということは、お前も選ばれし者、なのか」
「ぴんぽーん。俺は“時(リンネ)”。君のところで言う、時間」
「…一緒について来るのか?」
「そうじゃないと困るでしょうが」
少しヘラヘラしている眼鏡、ラグアスは、選ばれし者。
しかも何でまた全てを知ってるかのような言葉を…。
「月読は何でも見える。過去だって個人情報、考えていることも全部。まあだから俺は生き残りなんだけど。君…冷灯が異世界から来たのも、異世界の文字も知ってる。隠し事は無駄だから」
眼鏡をとると、ラグアスの眼の色が変化した。
暗い色の髪の毛には似つかわしくない明るめの茶色い眼だ。
眼鏡を掛けているときは、目立つ黄緑色の眼だった。
バーにありそうな服。
黒縁眼鏡。
暗い紫の髪の毛。
左の頬に月に矢印のマーク。
そして、力は時。
呆然とするあたしに、彼はふと思い出したように、「あ」と声を漏らす。
「さっきの強い風、あれ俺がやった」
時間を止める風、と 付け足す。
じゃあ何であたしには効かないのだろうか。
「そんなの、君が一番解ってる筈なんだけどなぁ。深く考えなくても解る程なのに」
「……異世界から来たから?」
「わかってんじゃん♪大体の攻撃は、何故か通じないんだよね〜」
「…」
ヘラヘラと笑うラグアスを見る。
では何故、時間を止める必要がある。
別にヴィーノとカヅムに限らず、コルクとレザとメレナも彼を見て直ぐには攻撃しない。
「保険に決まってんじゃん。もしもの事で何かあってからは遅いんだよ」
湖に手をそっと翳す。
そしたら湖はぼんやり光を放った。
ラグアスは立ち上がると、湖に向かって歩きだそうとした。