街で君の唄を聞いた
…このまま行ったら、確実に湖に落ちる。
危ない。
そんなのは、彼の力を知る前に思うこと。
力を知ってしまった今、危険だなんて思いもしない。
水面を歩けないという不可能を、法則含め、何もかも無視して歩いている。
「勘…というより、読みがいいね。君の思った通りだ。俺は湖の時間を止めたから水面を歩けるんだ」
「…早く本題に移ってもらえないか」
「そうだった。俺は君と話したくて仕様がなかったから、つい忘れてたな」
笑いながらコツコツと音をたてて歩く。
「俺はさ、ヘラヘラしてたりするけど、怒らない奴じゃない。寧ろその反対だね」
「ムカつく奴がいんのか」
「そうそう♪今すぐにでもぶっ殺したい位にムカついてる奴が一人居てね、でもどこにいるか分からない。だから君達と一緒に旅してれば見つかるかなって」
どこか憎しみが籠もった眼。
憎悪の眼だ。
見えなくとも分かるイラついたオーラは、今にも噴火しそうだ。
彼の過去に何があったなんて知らない。
根掘り葉掘りしてはいけない。
やったら自分が殺されるかもしれないし、それか自分がそいつに殺られてしまうかもしれない。
「やだなー。俺は仲間は殺さないよ。この手で仲間を殺したことなんて一度もないから。あ、でも俺の過去は秘密ね」
「…宿に戻る」
「マジで?じゃあついてこ」
「マジすか」
「だって俺がいたほうがいいっしょ?彼等がどう思うかなんてまだ知らないけどさ」
「兎に角、あたしがヴィーノ達の所に着いたら時間を解け。絶対だぞ」
「いいよ♪」
ガサ…ガサ…
木や草は動くのに、人は動けないのか。
もしかして動物だけ動けなくなるとか?
あ、でも湖は止められてたな。
…どうなってんだ。
摩訶不思議過ぎて訳わからん。
「あ」
ヴィーノ達発見。
パチン
その音は、止めていたのを動かし始めた。
勢い良く振り向くと、口角を上げて、戻したと言わんばかりの表情をしていた。