街で君の唄を聞いた




ヴィーノの部屋に行った事なんて、直ぐに忘れた。

だって眠かった。
超絶眠かった。


そんなこんなで夢を見ている訳だが。



(…人の声がする)



白い空間をゆっくり歩き出す。
浮かんでいるようで、見えない床があるらしいが…、壁と見分けがつかない。

ぼんやり何かが見えてきた。
音も段々と聞こえてきた。

ぼんやりと見えたソレに近付くと、どこから吹いてきたのか、いきなり強い風が身を包んだ。

腕を前にやって、強く目を閉じる。
開けていられないぐらい強い。

風が収まったから目を開けた。


(あ、れ?)



炎が街を包んでいる風景が、広がっていた。
白い空間なんて、もう何処にも無かった。
視界はハッキリしているが、音は少しぼやけて聞こえる。
聞き取りづらい。

ついでに言えば、あたし自身発光していたりする。

物には触れる。だけど温度は判らない。
――――透き通らない、幽霊とでも言おうか。


叫び声が飛び交う。

小さな男女が手を繋いで泣いている。
きっと兄妹だ。
親はどうしたんだろうか。
もしかしてこの炎の中、目の前に居る兄妹を残して死んでしまったのだろうか。



『…お母さーん…
…どこー?…』



どうやら母親ははぐれた子供を知らないようだ。
運良く助かった、って所か。



『…お姉ちゃん…!お母さんは何処か、知ってる…?』



あたしの方を向いて喋り出した男の子。
見えてるのか?



(…まさか)



そんな筈はない。
これは夢なんだから、見えない筈だ。

…だけど、男の子はあたしにしがみついて、何度も訴えてくるのだ。
信じがたい光景だ。

仕様がなくあたしはしゃがんで、男の子の頭をポンポンと手で叩く。
男の子はわあわあと声を上げて泣き叫ぶ。
同時に女の子も泣き出して。

思わず抱き締めた。


< 182 / 236 >

この作品をシェア

pagetop