街で君の唄を聞いた
戦うならば己を保て
雪…ねぇ。
雪なんてみるの、いつ振りだろうか。
凄く懐かしい。
ただ、最後に見た雪は赤かった気がする。
―――北大陸に上陸してからというもの、閑散としている街は、気持ち悪い程静かだ。
窓から覗いている人もいれば、目が合った途端に睨み付ける人もいる。
休戦中でも警戒心は怠らないんだな。
寧ろ俺等が来たことによって、より一層警戒心は強くなったのではないか、と思う。
子供が作っただろう雪だるまは、もう雪だるまではない。
ただの雪に戻っている。
…作り直さないってことは、親が家から出そうとしないんだろうな。
―――程なくして、段々と城が見えてきた。
城の近くに一人、ぽつんと誰か居る。
「クッ…クレイアさん!?」
「こんにちは」
驚く冷灯に対して、クレイアさんは平然と挨拶をする。
俺も驚いたな…。
しかし、こないだの歓迎会の推理と、今ここにいる理由が結び付く。
「休戦中とはいえ、こんな所に居たら危険ですよ!」
「大丈夫よ。あたしを殺す人なんて居やしないわ。居たら逆に懲らしめるわ」
クレイアさんを殺す人が居ない?
ということはやっぱり…。
「だってあたし、クレイア=カーフィスなのよ?王族を殺すなんて、一般市民がやることじゃないわ」
「えっ…………………えぇぇぇぇええぇえ!?」
「シッ!あんまり大声出さないの!兎に角、あなた達は城には近付かない方がいいわ。北大陸に来ることを許可したのはあたしなんだから。今のお父様はおかしいから、他大陸の人は受け付けないのよ。さ、付いて来て」
「は、はぁ…」
ヒュレイド王女と通じてたのは、クレイアさんだったか…。
魔物を倒した後、王女と話していたな。
もうその時点で王女はクレイアさんのことを見抜いていたんじゃないか?
…にしても、運が良かったな。
もしも歓迎会に彼女が来ていなければ、戦争が終わるまで北大陸に行けなかったかもしれない。
クレイアさんのお父さんは、よく西大陸に行くことを許可したな、と思う。
大事な娘を一人で他大陸に行かせるなんてこと、相当の戦術を持った人でなければ行かせない筈だ。
まぁ…精霊と契約してはいるけど。