街で君の唄を聞いた

…教会の裏に移動した頃、刃と刃のぶつかり合う音が聞こえてきた。
もう…遅いのか…。



「城の者が手を出すのは、民のためには仕方がないわ。…これが私の生きてきた中の、三回目の国内戦争とは思わなかったけどね」

「えっ…?」

「血の契約において応えよ…。オリプシィ!」



ぼわんと音をたてて出てきた精霊。
こないだとは違う精霊だ。
まさか、クレイアさんは複数契約しているというのか?
そんなの、今まで聞いたことないぞ。

普通の人間だったら、一つの精霊の扱いさえも難しいというのに、難無くこなしている。
それに負荷だって強い筈だ。
…なのに、苦い表情を全く浮かべないとは、ただの選ばれし者ではなさそうだな。

選ばれし者は、流れる血が少し違うらしい。
どこかの話では、未知の生命体とも言われたぐらい、違う存在とも聞いた。
もしかして聖霊が化けていただけかもしれないだとか、違う者の血が入り混じっているだとか、様々だ。
尤も、月読族はそこらの人間とは体質が若干違うから、最後の説は納得はいってしまう。

…ヴィーノも、な。



「…てか…、これ…」

「クレイアさん、歌えたなら、なんでさっき歌わなかったんだ…」



オリプシィ。
もしかして音の精霊か?
精霊については、まだ詳しくは解明されていない。
どの書物にも、人間への負担のことや、簡素なことしか書かれていない。
全部でいくついるのかも、判っていない。


クレイアさんが歌う前、オリプシィを杖に組み込んだ。
ただの歌や、調和歌じゃない。
これは、一体…。



「……ありがとう、オリプシィ」

『また何かあったら助けるわ』

「ええ。その時はまたお願いするわ」



ふぅ、と一息。
この歌には何か意味があったのか…?
無ければ使うことは無いだろうが、何故ここで…。



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