花の魔女
「大丈夫よ。ナーベルならうまくやってるわ。今頃あちらで楽しくやってるわよ」
にこにこと笑うアイリーンに、ナイジェルは心を痛めながらも微笑んだ。
この子は知らないのだ。
今、ナーベルがどういう状況にあるかを……
平凡というにはあまりにもかけ離れている事実。
話すべきなのかどうか迷いながらも、ナーベルのことをよく想ってくれるアイリーンに余計な心配をかけるまいと話さないことにしたのだった。
「それじゃ、行ってくるわね」
「ええ、お願いするわ」
ひらひらと手を振り、カゴを脇に抱えて小川に向かうアイリーンの後ろ姿をナイジェルは黙って見つめた。
できることならあの時、娘をここに引き止めたかった。
この村で普通に暮らして、普通の幸せを噛みしめて生きて行って欲しいと思った。
だがもうナーベルには、ここで平凡に暮らしていくことは幸せではないのだ。
そう感じたからこそ、ナーベルを送り出した。
ナイジェルは空を仰ぎ、遠く離れた地にいる娘に思いを馳せた。
(どうか、どうか無事で。ただそれだけを願っています…)