花の魔女
小さく呻き、壁に手をついた。
「どうしたの…?」
彼女が心配そうに覗き込んできて、ラディアンは大丈夫だと壁から手を離した。
「少し眩暈がしただけ。心配ないよ」
「……」
女は黙ってラディアンを見つめていたが、しばらくしてふっと笑みを浮かべた。
「私、もう行かなくちゃ。式が始まるまで会えなくなるけど、その間に倒れたりなんかしないでね」
「しないよ」
女がまた笑い、部屋を出ていこうとしたときだった。
突如、警鐘がけたたましく屋敷中に響き渡り、二人ははっと窓へ顔を向けた。
護衛隊が慌ただしく駆けていくのが見える。
「何だろう」
窓へと歩み寄るラディアンの背後で、女は少し表情を暗くした。
「来たのね…」
「え?」
何と言ったか聴き取れず、ラディアンが振り返ると彼女は首を横に振った。
「何でもないわ。あなたはここにいて。部屋から出ちゃダメよ」
女は走りだし、ラディアンは慌てて廊下へと飛び出したが、女の姿はもう消えていた。